ベクトルが苦手な人の克服法|平面から空間へ進む順番

ベクトルが苦手な人の克服法

ベクトルが苦手になるのは、向きを持つ量という新しい考え方と記号が一度に入ってくるためです。和と差・実数倍→位置ベクトル→成分→内積の4段を順に固め、空間はそのあとz成分を1つ足して広げると考えると、克服までの道筋が見えてきます。

この記事でわかること

  • ベクトルが苦手になる3つの型と、型ごとの戻り先
  • 平面から空間へ進む学ぶ順番
  • 成分で解くか、図で解くかの決め方
  • ベクトル方程式のs+t=1 を点で確かめる方法
  • 空間ベクトルで新しく増えること

ベクトルは、現行の学習指導要領では数学Cで学ぶ単元です。矢印の足し算まではついていけたのに、内積やベクトル方程式のあたりから急にわからなくなった、という高校生は少なくありません。

この記事の要点

  • 苦手は矢印・図形・ベクトル方程式の3つの型に分かれる
  • 学ぶ順番は和と差→位置ベクトル→成分→内積→空間
  • 座標があれば成分、比だけなら始点をOにそろえて図で解く
  • 空間で増えるのはz成分と「同じ平面上」の条件くらい

この記事では、ベクトルOAを「→OA」、ベクトルaを「→a」と書きます。

目次

ベクトルが苦手になる3つの型

ベクトルの苦手は、どこで止まっているかによって3つの型に分かれます。型が違えば戻る場所も違うので、まず自分がどれに近いかを見てください。

愛媛県高等学校教育研究会 数学部会のサイトに載っている実践報告(愛媛県立松山北高等学校)は、つまずきの原因をこう書いています。ベクトルは「大きさだけでなく、向きも考える」新しい概念で、その記法が理解を難しくしている、という指摘です。

同じ報告は、ベクトル方程式を「教えてもらったときは、何となく分かるところ」とも書いています。時間がたつにつれて分かりにくくなる単元、という見立てです。

  • 矢印の型:和と差で始点と終点がずれ、→AB と →BA を取り違える
  • 図形の型:成分の計算はできるのに、三角形や平行四辺形の問題になると何を求めればいいかわからない
  • ベクトル方程式の型:→OP=s→OA+t→OB の式は覚えたのに、点Pがどこにあるのか図にならない

個別指導塾で高校生のベクトルを見ていても、止まる場所はほぼこのどれかです。いちばん多いのは図形の型で、計算練習ばかりしてきた生徒ほどここで手が止まります。

苦手の型と戻り先

型よくある症状戻る場所
矢印の型差の向きが逆になる・和の図が描けない和と差・実数倍
図形の型比の問題で式が立たない・交点が出せない位置ベクトルと内分点
ベクトル方程式の型式は書けても点の位置がわからないs+t=1 を点で打つ練習

ベクトルは平面から空間へ、この順番で固める

ベクトルは、前の段の道具を使って次の段を解く作りになっています。文部科学省の高等学校学習指導要領(平成30年告示)でも、数学Cのベクトルは次の順です。

  1. 平面上のベクトルの意味、相等、和、差、実数倍、位置ベクトル、成分表示
  2. ベクトルの内積とその基本的な性質
  3. 座標とベクトルの考えが平面から空間に拡張できること

同じ学習指導要領では、数学Cは数学Iを履修した後に学ぶのが原則です。内積で使う cos も、数学Iの三角比で一度習っています。

ベクトルの学ぶ順番と戻り先

順単元できるようになりたいこと詰まったときの戻り先
1和・差・実数倍矢印をつないで和と差を描ける中学の平行四辺形
2位置ベクトル・内分点始点をOにそろえて内分点を式にできる中学の相似と線分の比
3成分表示成分で和・差・大きさを計算できる三平方の定理・座標
4内積成分と cosθ の2通りで内積を出せる数学Iの三角比
5空間への拡張z成分を足して同じ計算ができる1〜4 と空間図形

ベクトルを固める5つの段

  • 止まった段の1つ前に戻る
  • 1和・差・実数倍→AB=→OB−→OA(終点から始点を引く)を図で確かめる
  • 2位置ベクトル始点をOにそろえ、内分点を →OA と →OB で表す
  • 3成分表示和・差・大きさを座標の計算に置きかえる
  • 4内積成分の式と「長さ×長さ×cosθ」の両方で出す
  • 5空間へ広げるz成分を足して、1〜4と同じ計算をする

空間ベクトルで止まった人も、多くは2か4に原因がある

図:ベクトルは和と差から内積まで平面で固め、最後に空間へ広げる。止まった段の1つ前が戻り先になる

和と差は「終点から始点を引く」で向きがそろう

矢印の型の人は、→AB=→OB−→OA(終点の位置ベクトルから始点を引く)を、図を描いて一度確かめてください。式だけで覚えると、→OA−→OB と逆に書くミスが続きます。

たとえば O を原点、A(1, 3)、B(4, 1) とします。→AB=(4−1, 1−3)=(3, −2) です。A から右に3、下に2進むと B に着くので、図と式が一致します。

位置ベクトルで内分点を式にする

線分ABを m:n に内分する点Pは、→OP=(n→OA+m→OB)/(m+n) で表せます。m と n が「逆側」に掛かる形なので、取り違えが多いところです。

さきほどの A(1, 3)、B(4, 1) で、ABを1:2に内分する点Pを求めます。→OP={2(1, 3)+1(4, 1)}/3=(6/3, 7/3)=(2, 7/3) です。

A から B への移動 (3, −2) の3分の1だけ進むと、(1+1, 3−2/3)=(2, 7/3) になります。同じ点に着いたので、係数の掛け方は合っていました。

内積は2つの出し方を両方使う

内積には、成分で出す方法と「長さ×長さ×cosθ」で出す方法があります。2つを行き来できると、なす角も垂直も同じ道具で解けます。

→a=(1, 2)、→b=(3, 1) なら、成分の式で →a・→b=1×3+2×1=5 です。|→a|=√5、|→b|=√10 なので、cosθ=5/(√5×√10)=1/√2 となり、なす角は45°とわかります。

内積の答えは矢印ではなく、ただの数です。どちらも0ベクトルでないとき、内積が0なら2つのベクトルは垂直です。

成分で解くか図で解くかは問題文で決める

成分と図のどちらで解くかは、問題文に座標が書いてあるかどうかでほぼ決まります。迷う時間を減らすために、入口の選び方を先に決めておきましょう。

問題文の手がかりと、先に選ぶ方法

問題文の手がかり先に選ぶ方法最初の一手
点の座標・成分が書いてある成分成分を書き出して計算する
三角形の辺の比だけが書いてある位置ベクトル始点をOにそろえ →OA と →OB で表す
2本の線の交点を求める位置ベクトル交点を2通りに表し係数を比べる
垂直・なす角・長さを聞かれる内積長さは→a²=→a・→a で2乗して扱う
空間で立体が描きにくい成分都合のよい点を原点に置き座標をつける

成分か図かの選び方

  • 問題文を読んだら、まずここを見る
  • 1座標や成分が書いてあるか書いてあれば成分で計算する
  • 2比だけが書いてあるか始点をOにそろえ、→OA と →OB の2本で表す
  • 3垂直・角・長さを聞かれているか内積を使う。長さは2乗して内積に直す
  • 4空間で図が描きにくいか座標を置いて成分の計算に変える

図:座標があれば成分、比だけなら位置ベクトル。聞かれているのが垂直・角・長さなら内積を選ぶ

交点の問題は「2通りに表して係数を比べる」

図形の型でいちばん止まりやすいのが、2本の線の交点です。手順を1題で確かめてみましょう。

三角形OABで、辺OAの中点をC、辺OBを2:1に内分する点をDとします。線分ADとBCの交点をPとして、→OP を →a=→OA と →b=→OB で表します。

  1. P は AD 上にあるので、→OP=(1−s)→a+(2/3)s→b と書く
  2. P は BC 上にもあるので、→OP=(1/2)t→a+(1−t)→b と書く
  3. →a と →b は平行でなく0でもないので、係数どうしを比べてよい
  4. 1−s=t/2、(2/3)s=1−t を解くと、s=3/4、t=1/2
  5. よって →OP=(1/4)→a+(1/2)→b

手順3の「平行でなく0でもない」は、答案に書いておきたい一文です。これが無いと、係数を比べてよい理由が伝わりません。

ベクトル方程式は s+t=1 を点で打って確かめる

→OP=s→OA+t→OB で s+t=1 のとき、点Pは直線AB上にあります。式を覚えるより、s と t に数を入れて点を打つほうが早く身につきます。

s+t=1 のときの点Pの位置

st点Pの位置
10点A
01点B
1/21/2線分ABの中点
2−1Aの外側(Bと反対側)の直線上

さらに s≧0、t≧0 の条件がつくと、点Pの範囲は線分AB上だけです。表の4行目のように、s か t が負になると、点は線分の外へ出ます。

s+t が1でないときは、1になるように割る

さきほどの実践報告は、s+t=3 のような問題を次のように書きかえて解かせています。両辺を3で割り、s/3+t/3=1 の形にする方法です。

→OP=(s/3)(3→OA)+(t/3)(3→OB) と見て、3→OA=→OA′、3→OB=→OB′ とおきます。すると点Pは直線A′B′上にある、と s+t=1 の形に戻せます。

同じ報告によると、この書きかえを使った定期考査の問題で、直線上の点を答える小問の正答率は88人中88人でした。一方で報告者は、型のある問題は解けるようになったものの、図形を読み解く力は別に育てる必要があるとも書いています。

s と t の条件で点Pの範囲が変わる

  • →OP=s→OA+t→OB の点Pはどこにあるか
    • s+t=1直線AB上
    • s+t=1、s≧0、t≧0線分AB上
    • s+t=33で割って、3→OA、3→OB の終点を結ぶ直線上
    • s+t≦1、s≧0、t≧0三角形OABの周と内部

図:s+t の値を1にそろえてから、直線・線分・三角形のどれになるかを読む

空間ベクトルで増えるのは成分1つと「同じ平面」の条件

空間ベクトルは、平面で使った道具にz成分を1つ足したものと考えて進めてください。学習指導要領も、座標とベクトルの考えが「平面から空間に拡張できること」として扱っています。

平面と空間で変わるところ

項目平面空間
成分(x, y)(x, y, z)
大きさ√(x²+y²)√(x²+y²+z²)
内積(成分)x₁x₂+y₁y₂x₁x₂+y₁y₂+z₁z₂
点Pが同じ直線・平面上s+t=1 で直線AB上s+t+u=1 で平面ABC上
垂直の確かめ方1本と内積が0平面上の交わる2本と内積が0

たとえば →a=(1, 2, 2) の大きさは、√(1+4+4)=3 です。計算の形は平面とほとんど変わりません。

新しく考えることは、4点が同じ平面上にある条件と、平面に垂直なベクトルの2つくらいです。どちらも、平面で身につけた s+t=1 と「内積が0なら垂直」をそのまま広げた形になっています。

空間の図が描けない人は、直方体をいつも同じ向きで描くか、どこかの頂点を原点に置いて座標をつけてください。図形として考え続けるより、成分の計算に変えたほうが早く答えに届く問題も多くあります。空間座標のつまずき方は数学の図形・空間座標が苦手なときの克服法で詳しく書きました。

ベクトルの練習量と2週間の立て直し方

新しい問題集を買い足すより、手元の教科書傍用問題集か網羅系参考書の「ベクトル」の章を、5つの段の順に1周するほうが身につきます。章の中を行き来せず、順番どおりに進めるのがこつです。

参考書を選ぶときは、表紙の科目名を確かめてください。2022年4月以降に高校へ入学した学年から今の学習指導要領が適用され、新しい課程の本ではベクトルは「数学C」の巻に入っています。古い課程の本では、ベクトルは「数学B」の巻です。

ベクトルを立て直す2週間の目安

期間やること終わりの目安
1〜3日目和・差・実数倍、位置ベクトルと内分点の例題内分点の式を図と一致させて書ける
4〜6日目成分表示と内積の例題・類題なす角を成分から出せる
7〜10日目交点の問題、ベクトル方程式(s+t=1)交点を2通りに表して係数を比べられる
11〜14日目空間ベクトルの例題、間違えた問題の解き直し平面で解いた型を空間で再現できる

1日の量は、例題2〜3題と、その類題までで十分です。間違えた問題には印をつけ、11日目以降にまとめて解き直してください。

時間は学校の進度やテストの日程で前後してかまいません。数学B・Cの他の単元とあわせた進め方は、数学IIB(数2B)の勉強法にまとめています。

よくある質問

Q1:ベクトルが苦手すぎるときは、どこからやり直せばいいですか

和と差、実数倍の図から始めてください。→AB=→OB−→OA を、図を描いて説明できるかが最初の確認です。ここが言えれば位置ベクトル、内積の順に進めます。

Q2:ベクトルが苦手なのはなぜですか

大きさと向きを同時に扱う新しい考え方と、矢印の記号が一度に入ってくるからです。学校の実践報告でも、この概念と記法が理解を難しくする要因とされていました。計算と図の対応を1段ずつ確かめれば、苦手は少しずつ減っていきます。

Q3:空間ベクトルが全くイメージできません

イメージできなくても、座標を置けば計算で解ける問題が多くあります。都合のよい頂点を原点にして、各点に成分をつけてください。平面ベクトルの成分と内積が使えれば、同じ手順で進められます。

Q4:ベクトルの参考書はどれを選べばいいですか

まずは学校で使っている傍用問題集のベクトルの章を、例題から1周するのがおすすめです。新しく買うときは、今の課程の「数学C」の本かどうかを表紙で確かめてください。参考書の選び方は、目的別に整理した記事も参考になります。

Q5:文系でもベクトルは勉強したほうがいいですか

受ける試験の出題範囲によります。大学入学共通テストや個別試験でベクトルが範囲に入るか、選択問題かは、志望校の最新の入試要項で確かめてください。範囲に入っている場合は、この記事の順番で平面ベクトルから固めておくと安心です。

まとめ

まとめ

  • ベクトルの苦手は、矢印・図形・ベクトル方程式の3つの型に分かれる
  • 学ぶ順番は和と差→位置ベクトル→成分→内積→空間。止まった段の1つ前に戻る
  • 座標があれば成分、比だけなら始点をOにそろえて位置ベクトルで解く
  • 交点は2通りに表し、「平行でなく0でもない」と書いてから係数を比べる
  • s+t=1 は点を打って確かめ、1でなければ割って1にそろえる
  • 空間で増えるのは、z成分と「同じ平面上」「平面に垂直」の条件くらい

最近のテストで落としたベクトルの問題を1つ選び、上の表のどの段で止まったかを確かめてみてください。止まった段がわかれば、明日から戻る場所が決まります。

1人で進めにくいときは

※本記事はベクトルの学び方の一般的な整理です。合う進め方は学年・使っている教科書・学校の授業の進度によって異なります。試験の出題範囲は、各試験の最新の要項で確認してください。

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この記事を書いた人

Maedaです。国立大学の数学科を出て、公立高校の数学指導員として15年間働いてきました。今は地元で個別指導塾を開いて8年目、小学生から高校生まで60名ほどを見ています。

塾を始めたのは、40人のクラスでは、苦手な子に向き合いたくても物理的に手が回らなかったからです。教える側と経営する側の両方に立って気づいたのは、成績や目標に合わない塾に通い続けている家庭がとても多いことでした。ランキングの多くは合格実績と料金だけで順位をつけていますが、それだけでは選べません。

集団塾と個別塾の違い、進学塾と補習塾の使い分け、家庭教師やオンラインとの比較まで、指導員15年と塾経営8年の両方の経験から解説します。お子さんの進路を「数学が苦手だから」と諦める前に、選び方の軸から一緒に整理しましょう。

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