結論:数学IIBは「数IAの延長」ではない。三角関数・指数対数・微分積分・数列・ベクトルの5系統は抽象度の段差が一段上がる科目で、躓きの正体は「公式暗記の薄さ」ではなく「式の意味を絵にする回路」が組み上がっていない点にある。高校数学指導15年・60名指導中の現場で観察してきた限り、再起動の手順は単元ごとに違うため、本記事では5系統それぞれの躓きパターンと処方を分けて整理する。
数学IIBに入った途端、定期テストで70点台→40点台へ急落する高校生を毎学期見る。本人の能力が落ちたわけでも勉強時間が減ったわけでもない。数IAまで通用した「公式と例題の対応暗記」が、数IIBの抽象度では届かなくなる――それだけのことだ。指導現場15年でこのパターンを最初に分類したとき、躓きは大きく 3つの段差(記号読み替えの段差/関数概念の段差/空間処理の段差)に整理できると分かった。本記事ではこの分類に沿って、単元別の処方箋を提示する。
現在60名を観察中の指導枠でも、数IIBの伸び方は一律ではない。三角関数だけ止まっている層・微分積分の意味把握で迷子になっている層・ベクトルが「絵」にならない層が混在する。指導15年・観察60名の蓄積から導いた処方の中で、再現性が高かった手順だけを抽出する。
1. 結論先出し:数学IIBの躓きは「公式不足」ではなく「式の意味を絵にする回路」の欠落
まず3行で結論を置く。
- 数IIBで点が動かない子の95%は、公式を覚えていない訳ではない。「sin(α+β)の展開」「f'(x)の意味」「ベクトル方程式の指示先」を言葉と絵で説明できないのが本丸である。
- 再起動は「単元ごと」に切り分けないと失敗する。三角関数の躓き手当てと、微分積分の躓き手当ては別物。混ぜると共倒れになる。
- 2025年度新課程で数Bの「ベクトル」は数Cへ移動し、「統計的な推測」が必須化された。共通テストの選択構成も変わり、文系・理系で取るべき分野が再設計されている(後述§7参照)。
本記事の対象は、定期テストや模試で「数IIBに入ってから急に点が動かなくなった」高校2年生〜既卒生だ。指導15年で観察してきた躓きの原型と、その立て直し手順を9ステップで整理する。
1-1. この記事の使い方(読み飛ばし可)
全部を順番に読む必要はない。自分の躓いている単元から飛んでよい。順序は推奨であって絶対ではない。
- 「数IIB全体がしんどい」→ §2から順に
- 「三角関数だけ詰まる」→ §3だけ読む
- 「微積で何をしているか分からない」→ §5を最優先
- 「ベクトルが絵にならない」→ §6に直行
- 「共通テスト本番の戦略を組みたい」→ §7と§8
2. なぜ数IIBは「壁」と呼ばれるのか — 数IAとの構造的な3つの段差
数IIBが「数IAの自然な延長」ではないと指導現場で確信したのは、観察50名を超えたあたりだった。数IAで模試偏差値60前後を取っていた子が、数IIBに入って50を切るケースが珍しくなかったからだ。原因を切り分けると、数IAと数IIBの間には3つの構造的な段差がある。
2-1. 段差①:記号の「読み替え」が要る
数IAでは、sin・cos・log・∫といった記号はまだ「式の中の符号」として扱える。ところが数IIBに入ると、これらは関数として動く対象に変わる。例えば「sin(α+β)」は「2文字の和の三角比」ではなく、「角度を変数とする1つの関数の合成」として読み替える必要がある。この読み替えが出来ていない子の場合、加法定理を覚えていても応用問題で全滅する。
指導15年で繰り返し見てきたパターンは、「sin」を見ると反射的に直角三角形の辺の比に戻ろうとしてしまうこと。数IAの三角比の感覚が強すぎて、数IIの三角「関数」へ頭が切り替わらない。これは学習指導要領上も別系統の単元として整理されている(文部科学省「共通テスト『数学II・数学B』」資料に、数IIの内容として「いろいろな式/図形と方程式/指数関数・対数関数/三角関数/微分・積分の考え」が明記されている)。
2-2. 段差②:関数概念そのものの抽象度が上がる
指数関数y=2^x、対数関数y=log₂x、三角関数y=sinx――これらは「y=2x+3」のように「xを入れたらyが返る」装置として扱う必要がある。数IAの2次関数までは「グラフの形」を覚えてしまえば計算で押し切れたが、数IIBではグラフの形が動く(位相シフト、底の変換、合成)。形を覚える勉強では追いつかない。
この段差を越えるには「関数を1つの装置として扱う言葉」を持つしかない。指導現場では、「装置に何を入れて、何が返ってきて、どの軸でどう動くか」を口で説明させる訓練を最初の3週間で必ず入れている。
2-3. 段差③:空間処理(数列・ベクトル)の負荷が一段上がる
数列の漸化式、ベクトルの位置関係、空間ベクトル――数IIB(および2025新課程の数C移行分)は、頭の中で2〜3次元の図形を動かす負荷がかかる。数IAの図形・確率までは紙の上の操作で済んでいたものが、頭の中の操作に移る。空間把握が苦手な子はここで一気に止まる。
共通テストの平均点推移を見ても、この段差は数値に出ている。大学入試センター発表の本試験データと各予備校集計(河合塾Kei-Net 2025年度平均点等)を参照すると、数II・Bの平均点は2022年度43点台→2023年度61.48点→2024年度57.7点と乱高下し、2025年度の新課程「数学II・B・C」では前年比-6.18点で49点前後まで落ちた。受験生の実力が極端に変動したのではなく、「数IIB系統は得点が安定しにくい構造」だと示している。
3. 三角関数の躓きパターンと再起動手順 — 「sinを関数として扱う」が出発点
三角関数で詰まる子の症状は、指導15年で大別すると3パターンしかない。
- パターンA:加法定理は暗記しているが、合成(rsin(θ+α))になると手が止まる
- パターンB:単位円が「動く」イメージにならず、sin²θ+cos²θ=1の意味が口で言えない
- パターンC:三角関数のグラフの周期・位相・振幅を分けて操作できない
3-1. パターンA(合成で止まる)への処方
合成は「加法定理を逆向きに使う」操作だが、これが見えない子は加法定理の右辺と左辺を分けて言葉で説明する訓練が抜けている。処方は単純で、まず「asinθ+bcosθ」を見たら、紙に直角三角形を1個書く。横a・縦bの直角三角形を書いて、斜辺を√(a²+b²)、底角をαと置く。この絵を10題連続で書くと、合成の構造が手に入る。観察してきた60名の中で、合成で止まっていた子はこの絵描き10題でほぼ全員突破した。
3-2. パターンB(単位円が動かない)への処方
単位円は「半径1の円に角度を巻きつける装置」だ。これが固定された絵に見えている子は、点(cosθ, sinθ)が円周上を動くイメージを口で言えない。処方:紙に半径1の円を書き、θ=0、π/6、π/4、π/3、π/2、π、3π/2、2πの8点に対して、それぞれ(cosθ, sinθ)の座標を「指で押さえながら」声に出して読む。指導現場では「単位円音読」と呼んでいる。1日3周×1週間で、ほぼ全員が単位円を動かせるようになる。
3-3. パターンC(グラフ要素の分離)への処方
y=Asin(Bθ+C)+Dの4つの定数を分けて操作するのが目的だ。処方:y=sinθからスタートし、A→振幅、B→周期、C→位相、Dを上下平行移動という1ステップずつの変形を、5パターン分手書きで重ねる。最終的に「y=2sin(3θ-π/6)+1」のような複合形を見ても、4つの定数を分けて読めるようになる。
三角関数の躓きを再起動するときは、絶対に「加法定理の証明」から入らない。指導15年で何度も試したが、証明から入ると先に挫折する。順序は「単位円音読→加法定理の暗記運用→合成の絵描き→グラフの分離」が安定する。
4. 指数・対数関数の躓きと処方 — 「対数は指数の逆」を口で言えるか
指数・対数で点が落ちる子の8割以上が、「対数の定義」を式でしか覚えていない。a^x=b ⇔ log_a b = x という関係を、口で説明させると詰まる。指導現場で観察してきた限り、対数の問題でミスする子の根本は計算ミスではなく定義の説明不能だ。
4-1. 対数の定義「3要素」を分けて読む
log_a b = x という式には、底a・真数b・指数xの3要素がある。これを「底aを何乗したらbになるか、その答えがx」と口で言えるかが分岐点になる。処方:log_2 8 = ?、log_3 81 = ?、log_5 (1/25) = ?の10題を、「底2を何乗したら8、答え3」というフレーズで口頭で答える練習を3日連続でやる。これだけで対数計算のミスは半減する。
4-2. 底の変換公式の意味を絵で押さえる
底の変換は log_a b = log_c b / log_c a と覚える子が多いが、なぜこうなるかを説明できない子が大半だ。処方:「対数=指数の逆」と「指数法則」だけから自分で導出する練習を3回やる。導出が一度通れば、本番で公式を忘れても再構築できる。指導15年で、底の変換を「導出経験あり」で覚えている子は本番ミス率がほぼゼロだった。
4-3. 指数・対数の不等式の落とし穴
不等式 log_a x > log_a y を解くとき、a>1なら x>y、0<a<1なら x<y と不等号の向きが反転する。これが反射的に出ない子は本番で確実に落とす。処方:a>1・a<1の2系統で5題ずつ、合計10題を週1回でいい、3週間続ける。3週目には反射が定着する。
5. 微分・積分(数II範囲)の躓きと処方 — 「微分は接線の傾き」を絵で説明できるか
数IIの微積で止まる子は、微分の意味と積分の意味が「公式」止まりになっている。指導15年で観察してきた限り、微積の伸び悩みは「計算ができない」ではなく「何を計算しているか分からない」が本丸だ。
5-1. 微分の意味を「接線の傾き」で固定する
f'(x) は「点(x, f(x))における接線の傾き」を返す関数だ。これを絵で説明できない子は、増減表の意味が見えない。処方:y=x²-2x+1のグラフを書いて、x=0, 1, 2, 3の各点で接線の傾きを手描きし、その傾き値とf'(x)=2x-2の計算値を一致させる。10点分の絵描きで、微分の意味が手に入る。
5-2. 増減表は「形」ではなく「論理」で書く
増減表をテンプレ的に書く子は、f'(x)の符号から関数の挙動を導く論理が見えていない。処方:f'(x)=0となるxを求める→そのxの前後でf'(x)の符号を調べる→符号が正なら増加・負なら減少、と言葉で口頭で説明しながら表を書く訓練を5題やる。指導現場では「増減表音読」と呼んでいる。これで本番の応用問題(最大最小・グラフ概形)の正答率が跳ねる。
5-3. 積分の意味を「面積の足し算」で固定する
定積分 ∫[a→b] f(x)dx は「x軸とグラフが囲む面積(符号付き)」だ。これを絵で説明できない子は、置換積分・部分積分(数IIIだが)の前段階で詰む。処方:y=x²のグラフで∫[0→2] x²dxを長方形の積み上げとして近似する絵を書く。短冊の幅を狭くしていくと面積に収束するイメージを「自分の手で」描く経験が、後の数IIIへの導線になる。
5-4. 不定積分は「微分の逆」を口で言えるかが分岐点
∫ x²dx = (1/3)x³ + C のCを忘れる子は、不定積分の「逆操作性」が見えていない。処方:微分→不定積分→微分の往復計算を10題、口で説明しながらやる。Cの意味(定数項は微分で消える=積分すると不定)を自分の言葉で言えるようにする。指導観察60名の中で、Cを忘れていた子はこの往復訓練で全員Cを書くようになった。
6. 数列・ベクトルの躓きと処方 — 新課程で構造が大きく動いた
2025年度から実施されている新課程では、数Bから「ベクトル」が数Cへ移動し、数Bには「数列」「統計的な推測」「確率分布と統計的な推測」が残る構成になった。共通テスト「数学II・B・C」では数II(必答)+数B・数Cから3分野選択という形式に変わっており、文系受験生・理系受験生でルートが分かれる。本セクションは旧課程・新課程両方を意識して書く。
6-1. 数列の躓き — 「漸化式」で詰まる原型
数列で止まる子の99%が「漸化式」で止まる。等差・等比・階差までは公式運用で行けるが、a_{n+1} = 2a_n + 3 のような非自明な漸化式で手が止まる。処方:「特性方程式 x = 2x + 3 を解く→x = -3」→「a_{n+1} + 3 = 2(a_n + 3)」と置き換える型を10題分手書きで再現する。指導現場では「漸化式の型8パターン」を1週間で回す。8パターン回ると、本番で未習の漸化式に出会っても型が当てはまる。
6-2. 数列の躓き — Σ計算の意味把握
Σ_{k=1}^{n} k², Σ_{k=1}^{n} k³などの公式を暗記する子は多いが、Σ記号の意味(足し算の総和)を絵で説明できない子が多い。処方:Σ_{k=1}^{5} k = 1+2+3+4+5 を「縦に並べて書く」だけでいい。3回書けばΣの意味が手に入る。これをやらずに公式だけ覚えると、応用問題で確実に落ちる。
6-3. ベクトル(新課程は数C)の躓き — 「ベクトル方程式」が絵にならない
ベクトルで止まる子の症状は明確で、「ベクトルの式が幾何的に何を意味しているか」が見えない。例えば「OP↑ = sOA↑ + tOB↑(s+t=1)」が「直線AB上の点P」を意味することが直感で出ない。処方:紙に三角形OABを書き、s=0, t=1のとき・s=1, t=0のとき・s=t=1/2のとき、それぞれPがどこにくるかを手で打つ。3点書けば「s+t=1ならば直線AB上」という意味が掴める。
6-4. 空間ベクトルの躓き — 「3次元を2次元の紙に書く」
空間ベクトルが「絵にならない」と詰まる子は、3次元を紙の上に書く約束ごと(x軸右・y軸奥・z軸上、奥行きを斜めに)を持っていない。処方:直方体ABCD-EFGHを毎回同じ向きで書く訓練を3日連続でやる。指導15年の経験では、空間ベクトルが詰まる子の大半は「3次元の作図」自体が習慣化していない。1日10個書けば、1週間で慣れる。
6-5. 新課程で必須化された「統計的な推測」
2025年度新課程では、数Bに「統計的な推測」が必須範囲として位置付けられた。共通テスト数学II・B・Cでも、文系受験生は「数列・ベクトル・統計的な推測」の3分野から3分野を選ぶ形が主流になっている。指導現場で観察した限り、統計的な推測(正規分布・信頼区間・仮説検定)は計算自体は機械的だが、「何を推測しているのか」を言葉で言える子が少ない。処方:母集団・標本・母平均・標本平均の用語を口で説明させる訓練を最初に入れる。これがないと、信頼区間の幅・仮説検定の棄却域が「公式の数値代入」止まりになり、応用問題で落ちる。
新課程の制度設計については文部科学省「第4節 数学」の指導要領が原典である。
7. 共通テスト数IIBC vs 二次・私大 の戦略差 — 取るべき分野が違う
同じ「数IIB」と呼ばれていても、共通テストと二次・私大では問われる力が違う。指導15年で観察してきた限り、共通テスト型の演習だけ積んだ子は二次で落ち、二次型の演習だけ積んだ子は共通テストの時間配分で落ちる。両方をやる必要があるが、配分は受験タイプで変える。
7-1. 共通テスト数IIBC(70分)の特徴
2025年度から実施されている共通テスト「数学II・B・C」は、試験時間70分・配点100点で、数II必答(大問1〜3)+ 数B・数Cから3分野選択(大問4〜7)という構成だ。東進「数学IIBC全体概観」等の予備校分析を見ても、計算量が多く時間が足りなくなる構造になっている。観察してきた受験生で、共通テスト数IIBCで7割を超える子は、「分野選択を本番で迷わない」事前準備をしている。
7-2. 文系受験生の典型選択
文系の標準ルートは「数列・ベクトル・統計的な推測」の3分野選択になることが多い。理由:数列は型の数が有限で得点しやすい、ベクトル(新課程は数C)は文系大学でも頻出、統計的な推測は公式運用で対応しやすい。観察してきた範囲では、文系で「平面上の曲線と複素数平面」を選ぶ子は稀で、これは理系向けの分野と理解しておいて構わない。
7-3. 理系受験生の典型選択
理系(特に難関国公立・難関私大理系)の標準ルートは「数列・ベクトル・平面上の曲線と複素数平面」になる。統計的な推測は二次試験での出題頻度が低いため、共通テストでも選ばない場合がある(ただし大学・学部による)。受験校の二次出題傾向を事前に調べてから選択分野を決めるのが鉄則だ。
7-4. 二次・私大数学IIBの特徴
二次・私大では1問あたりの時間が長い(20〜40分)代わりに、誘導が少なく完答型の記述が求められる。共通テスト型で慣れていた子が二次の白紙答案に直面すると「何から書けばいいか分からない」状態になる。処方:二次対策の最初の1ヶ月は、解答時間より「論理の連続性」だけを採点する。式変形の途中に「ここまでで何が分かったか」を1行入れる癖をつけると、部分点が安定する。
7-5. 共通テスト目標点別の数IIBC学習配分(観察値)
| 目標点(数IIBC) | 標準的な学習時期 | 必須教材タイプ | 観察上の到達感 |
|---|---|---|---|
| 40〜50点 | 高2終わり〜高3夏 | 教科書例題+共通テスト過去問1年分 | 必答3問のうち2問で得点 |
| 50〜70点 | 高3夏〜秋 | 標準問題集+共通テスト型演習5年分 | 必答3問完答+選択2分野で半分 |
| 70〜85点 | 高3秋〜冬 | 共通テスト過去問8年分+実戦模試 | 必答完答+選択3分野で7割 |
| 85点以上 | 高3冬 | 時間配分演習+難問対策(必要分のみ) | 計算速度・選択判断が安定 |
※指導現場で観察してきた60名の到達点感をベースに、平均的な目安として整理。個人差は大きいので絶対指標ではない。
8. 数IIB学習に効く教材組み合わせと反復設計 — 何を何周するか
数IIBで点が動く子は、教材を増やさず、同じ教材を反復している。観察60名で共通する特徴だ。逆に教材を5〜6冊揃えて全部中途半端な子は、模試の偏差値が動かない。本セクションでは「型として効いた組み合わせ」だけを提示する。
8-1. 教科書例題+傍用問題集の役割分担
教科書例題は「定義と意味」を確認する道具、傍用問題集(4STEP・サクシード等)は「計算の運用」を反復する道具だ。役割を取り違えて傍用問題集だけ周回すると、意味が抜け落ちる。処方:1単元入るたびに、教科書例題を「口で説明しながら」1周→傍用問題集を3周(B問題まで含む)。この型で3単元回せば、教科書例題と傍用問題集の役割分担が体感で分かる。
8-2. 標準問題集(青チャート・フォーカスゴールド)の使い方
青チャートやフォーカスゴールドは網羅型で、全例題を1周するのに数IIBだけで100〜200時間かかる。これを「全部1周」しようとした子は、指導観察上ほぼ全員途中で挫折した。処方:単元単位で例題のみを3周し、節末問題は飛ばす。「例題3周→傍用問題集B問題3周→共通テスト過去問1単元分」の順序で回す。青チャートの使い方詳細は青チャート使い方記事で深掘りしているので、そちらと併読してほしい。
8-3. 共通テスト過去問の積み方
共通テスト数IIBは過去問の蓄積が少ない(2021年度開始)ため、センター試験数IIBの過去問も組み合わせる。ただし新課程移行(2025年〜)で「統計的な推測」が必須になり、「ベクトル」が数Cへ移ったため、2024年度以前の過去問はそのまま使えない単元がある。処方:2025年度以降の試行問題・本試験・追試験を最優先、それ以外は単元単位で抜粋して使う。大学入試センターが公開している試行問題・本試験問題が一次資料になる。
8-4. 模試の使い方 — 「復習の質」が伸びを決める
模試は受けたら復習で決まる。受けっぱなしの子は次の模試でも同じ単元で落とす。処方:模試後3日以内に「落とした問題の単元名」だけリスト化し、その単元の教科書例題に戻る。点数の上下より「どの単元で落としたか」のログを取る方が、長期的に偏差値が動く。模試復習の詳細は模試復習方法の記事に整理した。
8-5. オンライン教材・映像授業の併用判断
独学で数IIBを進める場合、映像授業(スタディサプリ・河合塾One・東進オンライン高校等)が定義の理解段階で効く。指導現場で観察した60名の中でも、独学で進めて伸びた子の8割が映像授業を「1単元あたり最初の1回だけ」見て、あとは紙の演習に戻していた。映像授業を5周見るより、紙の問題集を3周回す方が伸びる。教材選定の詳細は参考書選び方の記事を参照してほしい。
9. よくある質問(FAQ)と全体まとめ
数IIB学習に関する代表的な質問を、指導15年で受けた頻度順に整理する。一般論であり、個別の進路相談を代替するものではない。最終判断は学校・予備校・大学の公式情報と合わせて行ってほしい。
9-1. Q. 数IAが偏差値50切るんですが、数IIBに進んで大丈夫ですか?
A. 数IAの「2次関数・三角比・図形」がグラついていると数IIBで確実に詰まる。先に数IAの該当単元だけ戻り学習することを推奨する。詳細は数学やり直しの記事を参照。逆に数IAで偏差値55以上ある子は数IIBに進んで構わない。観察60名のうち、戻り学習を1〜2ヶ月入れた子の9割は数IIBで持ち直した。
9-2. Q. 三角関数と微積、どちらを先にやるべきですか?
A. 学校の進度に合わせるのが原則だが、独学で順序を選べるなら三角関数→指数対数→微積の順を推奨する。微積は「関数」の概念が前提なので、関数概念を三角・指数対数で固めてから入ると挫折率が下がる。観察上、微積から先に入った独学者の半数は3週間以内に止まった。
9-3. Q. ベクトルは新課程で数Cに移動しましたが、文系も勉強すべきですか?
A. 共通テスト「数学II・B・C」では、文系受験生も「数列・ベクトル・統計的な推測」の3分野選択が主流になっている。ベクトルを避けると選択肢が狭くなるため、文系でもベクトルは標準で勉強しておくべきだ。例外的に、志望大学が共通テスト数IIBCを課さない場合のみ別の判断になる。
9-4. Q. 数IIBの偏差値を10上げるのに、何時間くらい必要ですか?
A. 観察60名の中央値で、模試偏差値が10上がるのに約200〜400時間(3〜6ヶ月)が一つの目安だった。ただし、現状偏差値・基礎の固さ・1日の学習時間で大きく上下する。「短期で偏差値が確実に上がる」と保証する情報には注意したほうがいい。
9-5. Q. 数IIBは独学で行けますか?
A. 教科書+傍用問題集+共通テスト過去問+映像授業の組み合わせで、独学で偏差値60までは届く子がいる。観察60名のうち独学派は3割程度で、その8割が「映像授業を最初の理解段階だけ使う」型だった。偏差値65以上を目指すなら、添削指導(記述答案を見てもらう)がどこかで必要になる場合が多い。オンライン家庭教師の選び方はオンライン家庭教師数学比較の記事を参照してほしい。
9-6. Q. 共通テスト数IIBCで時間が足りません。どう対策しますか?
A. 時間配分の問題は「計算速度」より「選択分野で迷わない」ことが先決だ。本番で選択を迷う10秒×4回=40秒の損失が、終盤の1問落としにつながる。処方:模試で必ず同じ3分野を選ぶ。直前期に分野変更しない。詳細は模試復習方法と数IA勉強法(時間配分の基本)の記事を併読してほしい。
9-7. 全体まとめ
本記事は、高校数学指導15年・60名指導中の現場で観察してきた数IIBの躓きパターンを9ステップで整理した。要点を3つに圧縮する。
- 数IIBの躓きは「公式不足」ではなく「式の意味を絵にする回路」の欠落。単元ごとに処方を分けないと再起動できない。
- 三角関数→指数対数→微積→数列→ベクトル(新課程は数C)→統計的な推測の順序で、教科書例題→傍用問題集→標準問題集→共通テスト過去問の反復が安定。教材を増やすより同じ教材を3周。
- 2025年度新課程で共通テスト「数学II・B・C」の選択構成が変わった。文系は「数列・ベクトル・統計的な推測」、理系は「数列・ベクトル・平面上の曲線と複素数平面」が標準ルート。本番で選択を迷わない事前準備が時間配分を決める。
数IIBは数IAの自然な延長ではなく、構造的に一段上の科目だ。指導観察60名の経験から言えるのは、躓きが見えれば手当ては存在する――ということだ。本記事の手順を参考に、自分の躓いている単元から再起動してほしい。
※本記事は数学指導15年・60名指導中の観察に基づく一般情報であり、個別の進路相談・学習指導を代替するものではない。共通テスト制度・出題範囲は変更される可能性があるため、最新の大学入試センター・文部科学省の公式発表を必ず確認してほしい。本記事は2026年6月時点の情報に基づく。